3年目に入った爲末大学食育学部、最初の授業は初の北海道開催となった小樽市立手宮小学校が舞台。道内屈指の人気観光地として知られる小樽市街地や、船が行き交う小樽港を一望できる小高い丘の上に校舎を構え、明治34年の開校以来115年間もの歴史の中で数多くの生徒を育んできた伝統校です。
そんな手宮小学校は今年度で115年の歴史に幕を閉じ、来春には周辺4小学校と統合して新たに手宮中央小学校としてスタートを切ります。その前に、手宮小として特別な思い出を作りたいとの要望を受け、今回の授業が実現しました。当日はあいにくの曇り空でしたが、心配されていた台風の影響もおさまり、予定通りの開催に先生方もホッとした表情。小樽市長や教育長らが見学に訪れた他、多数のメディアや保護者も見守る中での開校となりました。


授業に参加するのは5年生、6年生の児童たち。手宮小学校のグラウンドは現在改修工事中のため、歩いて5分ほどの小樽手宮公園競技場での開催です。校庭を使えない子どもたちにとっては、のびのびと走り回れる久しぶりの機会。競技場までの急な上り坂を元気に上り、はりきってグラウンドに集まってきました。 「今日は為末さんという有名な先生がみんなに体育の授業をしてくれますから、ぜひしっかりがんばってほしいなと思います。それでは大きな声で先生を呼んでみましょう!」と仲倉校長のかけ声で、児童全員で「為末せんせーい!」と大コール。為末先生がグラウンドの入口から颯爽と登場しました。

ハードルを跳ぶために -目標設定への道筋-

「今日はみんなと一緒にかけっことハードルの練習をします。最後には全員にこの高さのハードルを跳んでもらおうかなと思います」と為末先生が冗談まじりに一番高いハードルを指さすと、会場からは驚きと笑い声が。「自分が跳べる高さのハードルを楽しく跳んでもらうということで、元気にがんばりましょう!」 まずは全員で大きな円を作り、ウォーミングアップ。爲末大学恒例の楽しい体操の時間です。
最初はその場でジャンプ。足を開いて大きくジャンプするのですが、円の中央で為末先生がジャンプすると、あまりの跳躍力に子どもたちはビックリ。続いて2人組になって1人は上下に、もう1人は左右に手をパチパチたたいたり、背中におんぶされた人がおんぶしている人の上半身をぐるっと一周するなど、為末先生から次々にユニークな課題が出されます。 はじめはどことなく緊張気味な児童たちでしたが、為末先生と一緒に体操しているうちにすっかり打ち解けた様子。「無理!」「できた!」と口々に叫びながら、グラウンドのあちこちでみんなの笑顔がはじけました。

障害物をどううまく跳び越えたらいい? -目標達成のポイント-

ウォーミングアップが終わったら、今度は列に並んでダッシュの練習です。
「ハードルで大切なのは姿勢。まっすぐな姿勢でまっすぐに走ることです。早速走ってみよう!」という為末先生のかけ声でダッシュ開始。全員が走り終わると、「カラダをまっすぐにしたまま、高くスキップしてみよう! 高く高くね!」と 今度は高くスキップしながら前進する練習です。

続いて「今度は最速スキップ! 自分で一番速いスキップをしてみよう。高くなくてもいいから、上じゃなくて前に動きましょう。大またでブンブン!と水平に動くのが大事だよ。やってみよう!」と、ジャンプ力を推進力に変える練習を行いました。この時点で既に、最初のダッシュに比べてスピードアップしている子が現れていました。 「では運動会で早く走るコツを教えます。ポイントはスタートダッシュ。まず片方の足を前に出して膝を90度曲げ、かかとの横でもう片方の膝をついてみよう。そのまま立ち上がると前かがみになるね? それがスタートダッシュの基本姿勢。この状態でカラダを前にグッと出して、体重の9割は前足にかけてみて。手は足と反対側を前に出して、そこから転びそうな勢いで前に飛び出そう。とにかくギューッと前に頭を出してみて。そう、ネコみたいに!」

先生に言われた通り、早速実践する児童たち。頭を前に前に出した結果、本当に転びそうになる子もいましたが、それでも怖がることなくチャレンジしていった結果、2巡目を走ったころにはスムーズにダッシュできるようになっていました。手宮小の子どもたちは運動不足だというお話でしたが、「みんな身体能力が高いなあ」と為末先生が思わずつぶやくほどの成長ぶりです。

自分でハードルの高さを選んで超えていく -目標設定-

ダッシュの練習が終わったところで、いよいよハードルの練習です。競技場には高さの違う4段階のハードルレーンが用意されました。見たこともない高さのハードルを目の前にして「うわーっ!」「あんなの跳べないよ!」と子どもたちは興奮気味。 「どこを跳んでもいいよ。好きな高さを跳んでみよう。何も考えなくていいから、とにかく高く高く跳んでみて!」

はじめは高いハードルにしり込みしていた子どもたちですが、「おいで! 大丈夫だから」と為末先生に促されて、1人また1人とハードルを跳び越えていきます。それを見た為末先生も「よしいける! いいぞ!」とみんなの背中を押します。いつもはここで児童たちがいろんな高さのハードルにバラけてくるのですが、手宮小の子どもたちは違いました。みんなが高いほうへ高いほうへと移動していき、最後には一番低いハードルを誰も跳ばなくなってしまったのです。それを見た為末先生、次第にハードルの高さを1段階ずつ上げていきました。

「今度は足の裏をゴールに見せるようにして跳んでみよう」 「反対側の足は、犬のおしっこのマネをしてみよう。足を90度曲げて、横に上げた形だね。犬のおしっこ、犬のおしっこと考えながら走ってみて!」 為末先生から次々とアドバイスが飛びますが、みんな臆することなくハードルに向かっていきます。ハードルの高さがどんどん高くなっても、転んだりハードルを倒してしてもへっちゃら。「みんなすごいな、跳べるなあ。もうこれ以上ハードル高くできないよ(笑)」と為末先生も思わず嬉しい悲鳴?

最後に、為末先生は児童たちを集めると、おもむろに1つのハードルを見せました。そびえたつような高さにざわつく児童たち。「これが、先生がオリンピックで跳んだ高さ。1m6㎝あります。はい、チャレンジしたい人!」と先生が言うと、手が挙がるかわりに子どもたちから「先生、跳んでみせて!」とリクエストが。みんなの目の前で、為末先生が軽々とハードルを跳び越えると、児童はもちろん先生や保護者からもオオーッ!と大歓声が上がりました。

「じゃあ中学生選手が跳んでいるハードルの高さにしよう。これなら誰か跳べるかな?」と為末先生の呼びかけを受けて、ハードル競技の大会入賞経験もある6年生の児童がチャレンジ。そして会場にいる全員が見守る中、みごとに一発でハードルをクリア! 大きな拍手がわきました。

まとめ  -目標達成はできたか-

爲末大学食育学部のハードル授業には、子どもたち1人1人が跳ぶ高さを見定め、それをクリアすることで目標を達成する喜びを感じてもらおうという意図があります。低いハードルから1段ずつ跳ぶ子がいれば、同じハードルをコツコツ練習する子など、授業の中で子どもたちはそれぞれのスタイルを見つけてハードルに取り組みますが、手宮小ではとにかく「もっともっと」と高いハードルをめがけていく児童が多いのが印象的でした。積極的にチャレンジを続ける子どもたちの姿を、為末先生は終始満足そうに見つめていました。