男子400mハードルの日本記録保持者でオリンピック出場経験も持つ為末大さんが、全国の小学校で出張授業を行う「爲末大学食育学部」。4年目となる2017年度は、緑まぶしい田園風景が広がる秋田県横手市からスタートです。横手やきそばと雪まつりで知られる横手市の北部に位置する横手北小学校は、近隣3小学校を中心に合併して2016年に開校した新しい小学校。木のぬくもりを感じさせる校舎は、広々と明るく開放的な雰囲気です。


梅雨のまっただなかでの開催でしたが、当日は薄曇りの穏やかな陽気。トップアスリートの授業を見ることのできる貴重な機会ということで、他学年の児童や近隣の中学生、保護者、報道陣などが多数見つめるなか、為末先生は石川淳校長とともに颯爽とグラウンドに登場しました。「鳥海山に見守られながら、為末先生が来てくださいました。横手北小学校の学校教育目標は<今日も笑顔で夢いっぱい>。今日の授業はその<夢>が1つの柱になっています」という石川淳校長のお話を合図に、授業がスタートしました。
1時間目の体育の時間は走り方やハードル走を学びながら、目標を実現する達成感を体験してもらう授業です。「今日はみんなと一緒にハードルと食育、それから夢の授業をします。まずはハードルの授業でみんなにハードルを跳んでもらいますが、好きな高さを跳んでいいですよ。やってみたい子は、オリンピックの高さを跳んでみてもいいよ!」と為末先生がオリンピックの高さにハードルを合わせると、見たこともない高さに児童たちからはざわめきが。はたして、あの高いハードルを超える児童は現れるでしょうか?

ハードルを跳ぶために  -目標設定への道筋-

はじめは恒例の、楽しい体操の時間です。その場で手を交互に伸ばしながらグーパーするなど、まずは軽めのウォーミングアップをこなしたら2人1組になってゲーム感覚のレクリエーションです。 お互いに右手を出し、ひとりは秋田、もうひとりは青森と為末先生に呼ばれたら相手の手を握り、呼ばれなかったほうは相手から逃げるのがルール。 「さあいくよ。セット!秋田!」「青森!」と為末先生が呼ぶたびに、児童たちからはキャー! と歓声が上がります。慣れたところでパワーアップして、 計算式の答えが偶数の人と奇数の人バージョンにチャレンジ。「3+1!」「3×3!」と計算が難しくなるたびに歓声が大きくなりました。

最後は2人1組でひとりが相手の背中におんぶされ、おんぶされている人が落ちないようにしながら相手の上半身をぐるりと一周するゲーム。 バランスを崩して地面に足をついたらゲームオーバーです。全身の筋力とバランス能力が問われる難易度の高いゲームで、一回でできた子、途中で落ちた子、 落ちないよう必死にふんばる子などさまざまでしたが、みんな笑顔いっぱいで心も体もほぐれた様子です。

障害物をどううまく跳び越えたらいい? -目標達成のポイント-

つづいてハードルの練習に移ります。高さの違う4段階のハードルを跳ぶ前に、為末先生は「速く走るにはどうしたらいいですか?知っている人!」と児童たちに問いかけました。 するとハイハイハイ! とたくさんの手が挙がり、「手をよくふる」「低い体勢で走る」「クラウチングスタートがいいと思います」などさまざまな意見が出ました。 「クラウチングスタートなんてよく知っているね!」と為末先生もびっくり。

「速く走るためには2つポイントがあります。1つは姿勢。体をまっすぐにすると、足が速くなります。もうひとつは母指球(ぼしきゅう)といって、親指の付け根の部分を地面にしっかりつけること。 靴の裏をよく見るとマークが入っている部分があるんだけど、それが母指球だね。今日はそこを使いながら、体をまっすぐにしながら走る練習をしましょう」

足を90度に開きながらしゃがみ、頭のてっぺんを引っ張り上げるような気持ちで立ち上がると、体がまっすぐな状態。そのままの姿勢をキープしてスタートダッシュを練習した後、 スキップしながら走る、高く飛び上がりながら進む、母指球を使ってジャンプする、といったトレーニングを行うことで児童たちは「速く走るための2つのポイント」を体で覚えていきました。

自分でハードルの高さを選んで超えていく -目標設定-

ダッシュの練習が終わったら、いよいよハードル走にのぞみます。為末先生は4つの高さのなかから「自分の好きな高さを跳んでいいよ!」と児童たちに呼びかけます。「おれはこっち!」と好きな高さのレーンへ散らばる児童たち。「まずは高く跳んでみよう!あとは何も気にしなくていいよ。ハードルを倒してもいいから、そのまま走っていいからね!」と為末先生の声を背中に受けて、それぞれが選んだ高さにチャレンジしてきました。

「跳べないときは、ハードルをまたいでいいよ。とにかく上に、上に高くね!勢いよく跳んでみて!」
為末先生は児童ひとりひとりに声をかけていくと、それに応えるように高く、高く跳び上がります。ふだんから運動に親しんでいるせいか、横手北小のみんなは最初からヒョイヒョイとハードルを飛び越えていきます。果敢にもはじめから一番高いハードルに挑戦した児童たちも、ひっかかることなく順調にクリア。体の小さな児童も高いジャンプでハードルを超えていく様子を見て、為末先生も「すごいな!」と思わずつぶやいていました。

しばらく練習してハードルに慣れてくると、今度は為末先生から次なる指令が。 「みんな、ふすまって知ってる? あれがハードルの上にあるんだと頭の中で思い浮かべてみて。ふすまを足でバーンと蹴破るイメージで、ハードルを跳んでみよう!」

為末先生の言葉を受けて、さらに勢いを増す児童たち。「どりゃあ!」「うおー!」とあちこちから雄叫びが響きわたるなど、横手北小のみんなはとにかく元気、元気。みんなのパワフルなジャンプを見て「そう、それそれ!」と為末先生もうれしそうです。「最後にもう1回跳びたい人!」と先生が問いかけると、たくさんの手が挙がり、熾烈なじゃんけん勝負で勝った4人の児童が好きな高さでハードル走を披露。みごと全員がすべてのハードルをクリアし、周囲から拍手があがりました。

ラストは、お楽しみのデモンストレーションタイム。全員の目の前で、オリンピックの高さまで上げられたハードルを為末先生が颯爽と走り抜けていきました。あまりのスピード感、見たことのない美しい動きに「え、何が起きたのかわからない!」とあっけにとられる児童たち。みんなからアンコールがあがり、為末先生がそれに応えると、今日一番の大きな歓声が上がりました。

まとめ  -目標達成はできたか-

児童が自分で目標(ハードルの高さ)を決め、それをクリアする達成感を味わうハードルの授業。「みんなは気づいていないかもしれないけど、 最初と最後をくらべるとハードルの跳び方がものすごく上手になっていました。この調子でみんな、どんどんハードルを上手に跳んでほしいと思います」 と為末先生が児童の成長ぶりを褒めました。

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