新潟では初の開催地となった沼垂は新潟市の東部に位置し、1400年以上前の文献に登場するほど古くから港町として栄えた土地柄です。その沼垂で明治6年に開校し、150年近い伝統を誇るのが沼垂小学校。新潟県内で2番目に広いという広大な敷地内には、木のぬくもり感じる新校舎や巨木がそびえる前庭、森のような中庭、のびのびと走り回れるグラウンドなど、充実した環境が整っています。
当日は直前まで大型台風の影響が心配されましたが、朝にはさわやかな青空が広がり、汗ばむほどの陽気。大勢の保護者の方々が見守るなか、5年生の児童が校舎から元気にグラウンドへ集まってきました。
「今日は為末大先生に3本立ての授業をしていただきます。さきほど聞いたのですが、外国の陸上選手は平均187cmも身長があるそうです。そういう選手たちに小柄な為末先生が勝つにはどうすればいいのか、というお話もお聞きできるかと思います。為末先生、今日はいろいろな角度で教えてもらえたらと思います」という須田哲明・沼垂小学校校長のお話のあと、全員で「よろしくお願いします!」と大きな声でご挨拶。1時間目の授業が始まりました。
自分へのチャレンジ、体育の時間
1時間目の体育の時間は、走り方やハードルの跳び方を学びながら、児童たち一人ひとりが跳びたい高さのハードルを選んで自由に跳ぶという授業です。自分で目標を設定し、それを達成していくことでチャレンジする大切さ、運動の楽しさを実感してもらおうというのがねらいです。
「今日はみんなとハードルの授業をします。ハードルが好きな人、手を挙げて!」と為末先生が児童たちに声をかけてみると、ほとんど手が挙がらず。「じゃあ今日はみんなにハードルを好きになってもらいたいと思うので、好きな高さのハードルを自由に跳びながらやっていきたいと思います」と先生。まずは恒例のウォーミングアップから授業スタートです。
ハードルをうまく跳ぶために大切なこと
2人1組で向かい合い、お互いに右手を出して握手する寸前のポーズをします。ひとりはドラえもん、もうひとりはドラミちゃん。為末先生がドラえもんかドラミちゃん、どちらかの名前を呼んだら呼ばれたひとが相手の手を握り、呼ばれなかった人は相手の手から逃げる、というゲーム感覚のウォーミングアップです。「さあいくよ。セット。…ドラえもん!」「セット。…ドラミちゃん!」と為末先生が呼ぶたびに、児童たちからは「やった!」と歓声が上がりました。
次はドラえもんのかわりに、偶数・奇数バージョンにチャレンジ。「7!」「3+5!」「3×3!」と計算がむずかしくなっていくたびに、児童たちからは「ぎゃー!」「むずかしい!」と叫び声が。緊張気味だった5年生も、笑顔があふれてきました。
ウォーミングアップが終わったところで、速く走るための姿勢づくりについて学びます。
「速く走るためにはいろんなコツがありますが、今日はひとつだけ覚えて帰ってほしいことがあります。それは、速く走るために一番大事なことは姿勢だということです。まっすぐな姿勢で走ることがとても重要なんですね。まっすぐな姿勢ってどういうことかというと、頭、首、肩、腰、足、くるぶしまで一直線になっている状態です。では練習してみましょう」
為末先生の指導で、みんなでまっすぐな姿勢を実践してみます。足を90度に開いた状態で、まっすぐ前を見る。そのままの姿勢でしゃがむ。頭のてっぺんを手で引っ張り上げる気持ちでそのまま立ち上がり、かかとが浮くくらい伸びたあと地面に足をつける。これで、まっすぐな姿勢のできあがり。
「その姿勢のまま走ってみましょう。はい、ダッシュ!」
為末先生の合図でダッシュの練習です。まずは普通にスキップで進む練習から始まり、慣れてきたら今度は上に向かって高くスキップ。つづいて、前に向かって大きく歩幅を取りながらスキップする練習。最後は外に向かってジグザグに跳ぶスキップの練習。はじめは楽々とできていた児童たちも、難易度が上がってくると「あれ?おかしいぞ?」とうまくいかずに悩み始める子も。
それでも「こういう風にやってみて!」と為末先生が手本を見せると、その跳躍力やすばやさに児童や保護者たちから思わず「おお!」と声がもれました。アスリートの技に間近で触れて、児童たちも大きな刺激になったよう。真剣な表情で広いグラウンドを走り回っていました。
自分で目標を定めて、超えていく
ダッシュの練習が終わったら、いよいよハードル走に取り組みます。グラウンドには4段階の高さのハードルが用意されました。「好きなところを跳んでいいよ。ハードルは倒しても、振り返らなくていいからね。何も考えずに、高く跳んでみて!」と為末先生が児童たちに呼びかけると、それぞれが自分の好きな高さのレーンを選んでチャレンジスタートです。
まだハードル経験は浅い5年生ですが、沼垂小学校の児童たちはハードルを蹴倒しても転んでも、果敢にハードルに向かっていきます。そうした児童たちを見て「何も考えなくていいよ!跳べばいいだけ!そうそうその調子!」と為末先生も指導に熱が入ります。
ハードルに慣れてきたところで、今度は跳ぶ時の姿勢についてアドバイス。
「ハードルの真上にドアがあって、ドアを蹴破るつもりでハードルを越えていってみよう。頭の中でドアを蹴破るところを思い描いてみて!」
この為末先生の言葉を受けて、積極的にハードルに取り組む児童たち。中には明らかに以前と飛び方が変化してきた児童が現れ、為末先生も沼垂っ子の身体能力の高さに目を見張っていました。「ハードルを跳ぶ時に、自分の足の裏をゴールに見せるようにして跳んでみて!」とアドバイスをすると、児童たちがハードルを跳ぶ時の姿勢がどんどんよくなっていくのがわかりました。
さらにハードルが上達してきた児童には、ハードルとハードルの距離を狭めたレーンを用意。「陸上の試合ではこの距離で跳ぶんだよ。じゃあハードルの間を3歩で跳んでみようか!」と為末先生が声をかけると、チャレンジ精神旺盛な児童たちも「ムリムリムリ!」と悪戦苦闘。「頭で考えないで、音で覚えてジャンプしてみよう。タタンタンタン、タタンタンタン、リズムで跳んでみて。そうそう!」為末先生の言葉を受けて、3歩で跳べる児童が次々と現れました。
最後にお楽しみのデモンストレーションタイム。今回は5年生の担任・裏田先生と児童代表のチャレンジャー、そして為末先生がダッシュでガチンコ勝負です。「為末先生がんばれー!」と児童たちから声援が上がり、裏田先生が「みんなはどっちの味方なの!?」と言うと「為末先生!」と即答して会場は大爆笑。授業中にすっかり為末先生と仲良くなった児童たち、笑顔で3人を応援します。
ハンデとして児童のずっと後ろからスタートを切った先生2人。でもあっという間に追い越してトップでゴールしたのは為末先生! あまりのスピードと1歩の大きさに、児童たちや保護者の方々からも「うわー!すごい!」と驚きの声が上がりました。
まとめ-目標達成はできたか-
児童が自分自身でハードルの高さを選び、跳び方を学ぶことで目標をクリアする達成感を味わうハードルの授業。沼垂小には目標を達成するだけでなく、達成した後に新しい目標を立てるというチャレンジ精神にあふれた児童が多く、これまでの爲末大学食育学部の中で最も高度なハードル指導が行われました。
「今日はみんなすごく上手になっていたと思います。大事なのは勢いなので、勢いをつけてハードルを跳ぶ練習をつづけてもらえたらと思います」
為末先生によるまとめの挨拶で、1時間目の授業は終了となりました。