時間栄養学
2022.03.04
第1回 体内時計とはなにか

監修:愛国学園短期大学講師 古谷彰子先生

私たちは体内時計とともに生きています

私たちの脳や体には、「体内時計」と呼ばれる1日のリズムを作り出す「時計遺伝子」があります。この時計遺伝子が、私たちの体を地球の時間に合わせて、調整してくれます。
この時計遺伝子は、あらゆるところに組み込まれていて、メインとなるのが、脳の「視交叉上核【しこうさじょうかく】」にある「主時計」です。みなさんの両耳を繋いだ中間あたりに位置しています。この主時計以外に、胃、腸、肝臓などの内臓や、血管や皮膚などの末梢組織にも「副時計」と呼ばれる体内時計が備わっています。これら体全体に備わっている副時計を調整するのが、脳の主時計です。

ここで最初に問題になるのが、これらの時計は、地球が刻む1日の長さである「24時間にセットされていない」ということです。主時計が刻む「1日」の長さは人によってばらつきはあるものの、24時間よりも少し長い1日を刻みます。そのため、外の光の刺激がない洞窟に住むとすると、地球の1日と、自分の体が刻む1日が、毎日約30分ずつずれていきます。24日後には、昼夜逆転という事態になってしまうのです。

さらに、副時計が刻む「1日」の長さもバラバラ。つまり私たちは体の中に1日の感覚がずれた時計をいくつも抱えているわけなのです。そのため、私たちは毎朝、それらの時計を一度リセットしてから1日をスタートするようにしなくてはなりません。

「光の刺激」と「食事の刺激」

自分の体にある体内時計のずれを、地球の時間に毎日合わせる必要があるのですが、この調整には、「光の刺激」と「食事の刺激」の二つが大きく関係しています。

「光の刺激」は、目の網膜に光が入ると、情報が視交叉上核に伝わり、更に松果体に伝わります。内分泌器官の松果体は、メラトニンというホルモンを、暗い光だと多く分泌し、明るい光だと少なく分泌して、血中のメラトニン濃度を調整することで、内臓、血管、皮膚などの全身に「朝だ」「夜だ」という指令を出します。朝、強く明るい光が網膜に入ると、視交叉上核が「朝になった」と認識し、松果体からのメラトニン分泌を抑えて、全身の組織に対して、「各自の体内時計をリセットせよ」と指令を出しているのです。

「食事の刺激」は、食事をすることによって、胃、肝臓、膵臓、皮膚、血管などすべての細胞に対し、「体内時計をリセットして下さい」という指令が直接各器官に伝わるようなイメージです。

また、夕食を食べて朝食を摂るまでの間に絶食していることになりますが、この夕食から朝食までの長い絶食時間が体内時計のリセット効果に大きく影響します。ただ、絶食時間を十分にとれていない人の方が多いでしょう。絶食時間を10時間ほど設けることができれば、食事がもたらす体内時計のリセット効果が高まるとされています。2017年に出されたヒト研究の報告によると、明暗環境を変えずに食事時間だけをずらすと、体内時計のリズムが変わることが示されています。つまり、光よりも食事の刺激のほうが勝ってしまう場合があるということです。報告されているのは、血糖値、インスリン、末梢臓器の体内時計です。

光と食事の二つの刺激の相乗効果によって、体内時計は調整されますが、夜勤やどうしても深夜まで起きていなければならない事情がある場合は、せめて食事だけでも体内時計を乱さないような習慣づけをしておく必要があるでしょう。