血糖値とは、血液中の糖(グルコース)の濃度のことです。健康診断で糖尿病と診断されたり、「血糖値が高めです」と言われたりしない限り、健康な人は血糖値を気にすることはないかもしれません。しかし、食後の血糖値や血糖の上がり下がり、すなわち1日の血糖の変動は健康を維持するうえで大変重要です。
健康な人でも食事をすると血糖値は上昇し、空腹のときには血糖値は下がります。糖尿病の方は血糖値の変動が大きく、健康な方は変動が小さくコントロールされています。
ところが、健康診断で調べる空腹時の血糖値が正常でも食後の血糖値は高い方がおられます。この方々は知らず知らずのうちに糖尿病に近づいている危険性があります。
さらに食後の血糖値が高いほど、がんの発症や死亡リスクがあがり、アルツハイマー型認知症や血管性認知症の発症リスクも上がることなどが報告されています。
また、高血糖は糖化による終末糖化産物AGEsという褐色の物質をつくります。これは糖とコラーゲンなどタンパク質が結合したもので、シミができたり肌の張りや弾力がなくなったりします。またAGEsは、血管の老化を進め、動脈硬化を進展させ心筋梗塞、脳梗塞のリスクを高めます。
それでは、食後血糖値を上げ過ぎないためにはどうすればよいでしょうか?
「野菜ファースト」や「食べる順番」という言葉はご存知でしょうか?従来の糖尿病患者さんの食事療法は、カロリーや糖質量を減らすというものでしたが、患者さんや家族の方にとって、食事をいちいち計量したり、カロリーを計算したりするのはたいへんなストレスでした。
そこで、食事療法を簡単にストレスなく実行できないだろうかということで考案されたのが「食べる順番」です。これを世界ではじめて明らかにしたのが、糖尿病専門医の梶山静夫先生と私です。
1980年代に、海外では食物繊維を多く含む未精製の穀類を食べると血糖上昇を抑えることが報告されていました。これがのちにグリセミックインデックス(GI)と呼ばれる指標につながります。
精製された白米より、玄米や麦ごはんの方が食物繊維を多く含むため、血糖値は抑えられます。しかし、日本人は白米を好む方が多いので、玄米や麦ごはんをすすめても長続きしないことが多いのです。
そこで、野菜の食物繊維にも同じ糖質の吸収を遅らせる効果があるのなら、野菜から食べてみてはどうだろうか?ということで、食べる順番の違いが血糖値とインスリンに及ぼす影響について実験を行いました。1-3)
この研究結果は従来の栄養学の常識をくつがえすものでした。というのも同じカロリー、同じ糖質量、食物繊維量も同じ食事を同じ人が食べると、血糖値はほぼ同じになると考えられていたからです。しかし、食べる順番により炭水化物を最後に食べることで、血糖値だけでなくインスリンも抑えられることがわかったのです。3,4)
その後、国内外で食べる順番の追試研究がなされ、アメリカの研究者たちによって肥満の2型糖尿病患者においても炭水化物を最初に食べる日と最後に食べる日では血糖値、インスリンとも最大50%異なることが示されました。
ダイエットだけを気にして、ただ野菜だけ食べてごはんやおかずは食べないという食生活では、タンパク質やカロリーなど他の栄養素が不足してしまいます。特にやせている方や高齢者は筋肉が減るサルコペニアやフレイルのリスクが高まります。
食べる順番を活用すれば血糖値を抑えられることがわかっています。バランスの良い食生活のためには、まず野菜を食べ、次にタンパク質のおかずを食べて、最後に少し残しておいたタンパク質のおかずと一緒に炭水化物を食べると良いでしょう。
参考文献