第2回のコラムでは、穀物の健康効果と有効な成分について紹介しました。今回は、最近耳にする機会も多い腸内環境と穀物の関係についてお話したいと思います。
食物繊維は、便の重量を増やし、大腸内の通過時間を短縮することが知られています。便の通過時間が短縮することで大腸内の圧力が低下するため、食物繊維は大腸憩室症*の予防にも関与すると考えられています。 健康な男性を対象に食物繊維摂取量と大腸憩室症発症の関係を4年間追跡調査した研究では、食物繊維摂取の多い集団は、少ない集団に比べて、有意に相対危険度が低下することがわかりました1)。 この効果は、全粒小麦(全粒粉)や小麦フスマ等にも含まれる、不溶性食物繊維による作用が主体と考えられています。
* 大腸憩室症:憩室とは腸管壁の一部が外側に風船のように突出した状態のこと。便の量が少なくなって過度に便を送り出すための腸管運動が起こることで、大腸内の圧力が高くなり憩室ができる。憩室が、出血や炎症(憩室炎)を起こすこともある。
私たちの腸内には約1000種類、40兆個の細菌が生息していて、この様子を「草むら(叢)」や「花畑」に例えて、「腸内細菌叢(そう)」や「腸内フローラ」と呼んでいます。
小麦フスマの不溶性食物繊維中に存在するアラビノキシランは、腸の中で溶け出して、腸内細菌叢を活性化させることが培養試験で報告されました2)。
そこで私たちは、日本人を被験者として小麦フスマ配合食品(シリアルバー)の摂取が、腸内細菌叢と糞便代謝産物に及ぼす影響を二重盲検無作為化試験*で調べました3)。
* 試験参加者を無作為(ランダム)に、①小麦フスマを含まないシリアルバーを食べるグループ ②小麦フスマを含むシリアルバーを食べるグループに分け、試験参加者および試験担当者(研究者)の両者が、試験参加者が①②のどちらのグループに属するか、わからない状態で行う試験。
この結果から、小麦フスマの摂取によって、小麦フスマを栄養源とする酪酸産生菌が増殖して、腸内の酪酸などの短鎖脂肪酸濃度も増加することがわかり、また、慢性腎臓病や高血圧の原因となる腐敗産物(尿毒素)の産生量は減少することがわかりました。
腸内細菌が産生する酪酸は、大腸のエネルギー源になることや、腸のバリア機能を高める効果があること、また制御性T細胞を活性化させて免疫機能を調節することなどが知られていて、全粒粉や小麦フスマには、腸内細菌叢の改善を介して健康に関係することも明らかになってきました。
私たちの健康を維持する上で非常に大切な腸内細菌叢の多様性は、主に母親から子へと伝えられることが知られています。また、妊娠中の母親の腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸は、胎児の発達に影響を与え、出生後も子の肥満を抑制することが報告されています4)。妊娠中のお母さんが食物繊維をしっかり摂取すれば、生まれてくる子どもの健康にも役立つということです。
一方で、せっかく母親から受け継いだ腸内細菌叢も、栄養源となる食物繊維が不足すると、その多様性が著しく低下することが報告されています5)。腸内細菌叢の多様性を子へと受け継ぎ、また腸内細菌叢の多様性を維持するためにも、食物繊維の摂取はとても大切です。
食物繊維を含む食品は様々ですが、全粒粉や小麦フスマの食物繊維は、ビフィズス菌や酪酸酸性菌の栄養源になることが分かっており、全粒穀物は腸内細菌にとって重要な食品と言えるでしょう。
参考文献