穀物の健康効果
第1回のコラムでは穀物と食物繊維の関係を紹介しましたが、今回は穀物の健康効果についてお話したいと思います。
穀物の摂取と私たちの健康の関係について色々な研究がされていて、特に全粒穀物や穀物フスマの摂取が、病気や死亡リスクを低下させることが分かってきました。
穀類(全粒穀物や穀物フスマ)摂取についての研究事例
事例① 全粒穀物や穀物フスマの摂取は、肥満、2型糖尿病、冠状動脈疾患のリスク低減に有効である。1)
事例② 朝食に穀物繊維を摂取することにより、糖尿病、冠状動脈疾患の相対リスクが低下する。2)
事例③ 全粒穀物を1日16g摂取することで全死亡リスクが7%低下、1日48g摂取することで20%低下する。3)
事例④ 全粒穀物を1日90g(3サービング相当)摂取した集団は、摂取量が最も少ない集団と比較して、全てのガン、呼吸器疾患、糖尿病が原因の死亡リスクが低下した(図1)。特に、糖尿病の死亡リスクが大きく低下する。これらの効果は、全粒粉パン、全粒粉シリアル、穀物フスマを添加したもので見られ、精製穀物や白米等では効果は弱い。4)
図1 1日90gの全粒穀物摂取による相対死亡リスク(摂取量が最も少ない集団を1として相対比較)
参考文献4)を加工して作成
研究事例によって、数値に違いは見られますが、全粒穀物の摂取は、健康リスクの低下につながることが分かります。
これらの結果をもとに、海外の食事ガイドラインでは、全粒穀物や穀物繊維に富む食事が推奨されています。
穀物に含まれる有効な成分
穀物には、食物繊維以外にフェノール酸の一種であるフェルラ酸が含まれていて、全粒粉にも多く含まれることが知られています。フェルラ酸は、抗酸化能を有する他に、様々な健康との関係も明らかとなっています。
例えば、フェルラ酸をヒトが6週間摂取すると、血中の総コレステロール、LDLコレステロール、および中性脂肪能が低下することが報告されています。5)
さらに、アルキルレゾルシノールという成分も小麦やライ麦などの穀物に含まれています。この成分もフェノール酸の一種で、摂取すると体内に吸収されて血中から検出される6)ことから、小麦粉製品をどれくらい摂取しているか調べる指標にもなります。7)アルキルレゾルシノールの健康との関係については、体重増加、脂肪肝などの抑制効果、耐糖能異常の改善効果が知られています。なお、アルキルレゾルシノールは、パンの加工においても、分解されないことが分かっているので8)、小麦全粒粉や小麦フスマを原料に活用した加工品(パン)からの摂取でも健康との関係が期待される新たな成分と言えます。
参考文献
- Cho, S. S., Qi, L., Fahey, G.C. & Jr, Klurfeld, D. M. Consumption of cereal fiber, mixtures of whole grains and bran, and whole grains and risk reduction in type 2 diabetes, obesity, and cardiovascular disease. Am. J .Clin. Nutr. 98, 594-619 (2013).
- Williams, P.G. The benefits of breakfast cereal consumption: a systematic review of the evidence base. Adv. Nutr. 5, 636S-673S(2014).
- Zong, G., Gao, A., Hu, F. B. & Sun, Q. Whole Grain Intake and Mortality From All Causes, Cardiovascular Disease, and Cancer. Circulation. 14, 2370-2380 (2016).
- Aune, D. et al. Whole grain consumption and risk of cardiovascular disease, cancer, and all cause and cause specific mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. BMJ. 353, i276 (2016).
- Bumrungpert. A. et al. Ferulic Acid Supplementation Improves Lipid Profiles, Oxidative Stress, and Inflammatory Status in Hyperlipidemic Subjects: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Clinical Trial. Nutrients. 10, E713 (2018).
- Ross, A. B. et al. Research Communication: Cereal Alkylresorcinols Are Absorbed by Humans. J. Nutr. 133, 2222-2224(2003).
- Landberg, R. et al. Dose response of whole-grain biomarkers: alkylresorcinols in human plasma and their metabolites in urine in relation to intake. Am. J. Clin. Nutr. 89, 290-296 (2009).
- Ross, A. B. et al. Alkylresorcinols in Cereals and Cereal Products. J. Agric. Food Chem. 51, 4111-4118 (2003).