糖質と健康
2024.6.28
第2回 糖質の摂取目標と摂取状況

監修:神奈川県立保健福祉大学地域貢献センターアドバイザー 藤谷朝実先生

糖質の摂取目標と摂取状況

糖質はどのくらい必要か?

炭水化物、特に糖質はエネルギー源として非常に重要な役割を担っています。その一方、糖質の過剰摂取が2型糖尿病以外の健康障害の原因となるといった報告はなく、糖質の必要量を明らかにすることは簡単ではなく日本人の食事摂取基準でも必要量は明示されていません。

糖質はエネルギー源として重要であるという観点から炭水化物の摂取量は、たんぱく質や脂質の必要量に応じたエネルギー比(エネルギー産生栄養素バランス*1)として、その「目標量」(50~65%エネルギー)が示されています(図1)。炭水化物から摂取するエネルギーのうち、食物繊維に由来する部分はごくわずかで、ほとんどは糖質に由来するため、ここでの炭水化物のエネルギー比は糖質のエネルギー比とほぼ同じと考えてよいといわれています。この範囲で炭水化物(糖質)を摂取することが結果として、炭水化物の食べ過ぎやエネルギーの過剰摂取を予防し、たんぱく質、脂質摂取量の適正化につながります。

図1 エネルギー産生栄養素バランス(18歳~49歳男女)

エネルギー産生栄養素バランス1

*1 エネルギー産生栄養素バランス(エネルギー比、PFC比)
エネルギー比とは、たんぱく質(Protein:P)、脂質(Fat:F)、炭水化物(Carbohydrate:C)からそれぞれどのくらいの割合でエネルギーを摂取しているか比率で示したものです。日本人の望ましいPFC比は13~20:20~30:50~65とされています。たんぱく質、炭水化物1gからはそれぞれ4kcal、脂質1gからは9kcalのエネルギーを産生します(Atwaterの熱量係数)。


日本人の炭水化物(糖質)の摂取量は?

令和元年(2019年)の国民健康・栄養調査では、日本人20歳以上における平均エネルギー摂取量は約1900kcalで、エネルギー産生栄養素バランス(PFC比)は、たんぱく質15.0%、脂質29.0%、炭水化物56.0%となっています。エネルギー産生栄養素バランスの年次推移を見ると炭水化物のエネルギー比は年々減少し、脂質のエネルギー比が増加しています(図2)。これら摂取エネルギー比の変化の原因は、食文化の多様化などによる主食(穀類)の摂取量減少や、肉類の摂取量増加が挙げられます。

図2 エネルギー産生栄養素バランス推移(1歳以上、男女)

エネルギー産生栄養素バランス2

出典:国民・健康栄養調査を加工して作成

肉類の摂取量増加は体格の向上につながり、1955年と比べると日本人の平均身長は、30代男性で160.7㎝から171.5㎝*2に伸長しました。その一方で脂質の摂取量は増加しており、肥満者数の増加率はエネルギー摂取量よりも脂質摂取量の増加に関連しているといわれています。

主食である米飯やパンは、水分を除いた重量の約75~90%が糖質であり、食事の中で主食を一定にすることで、脂質によるエネルギー過剰摂取を抑制するとともに、エネルギー不足を回避することにつながります。日本の米飯(主食)とおかず(主菜・副菜)を組み合わせた食事は、理想的な栄養バランスと言われており世界的にも注目されています。日本人が目指す食事として、厚生労働省と農林水産省は食事バランスガイドを提示し、主食を中心に主菜・副菜等をどのようにどのくらい組み合わせるとバランスの良い食事となるかを示しています。

*2 国民健康・栄養調査 昭和30年 男性31~40歳の平均身長、令和元年 男性30~39歳の平均身長を比較


望ましいごはんの量は?(健康維持のための米飯量の目安)

望ましい一食のごはん(米飯)量を、エネルギー比から考えてみたいと思います。健康な成人の1日当たりのエネルギー消費量(必要量)は体重あたり約30~40kcalであり、体重50kgの人であれば、1日のエネルギー必要量は1500~2000kcal、1食あたりのエネルギー必要量は500~700kcalとなります。このうち50~55%のエネルギーを米飯、残り5~10%程度を他の食品に含まれる糖質から摂取すると、米飯から摂取すべきエネルギー量は一食当たり250~380kcalとなります。

米飯100gあたりの糖質(利用可能炭水化物*3)量は約38gなので、米飯100gあたりの糖質由来のエネルギーは38g×4kcal*4=約150kcalです。従ってエネルギー比50~55%のエネルギーを摂取するための望ましい一食の米飯量は、250~380kcal÷150kcal×100g=約160g~250gとなります。目安量として体重1kgあたり30~50gの米飯を摂取されると大きな過不足なく摂取できると思います。この算出方法は、体重が適正体重の方に利用できます。過体重や低体重の方は、標準体重を用いて米飯の摂取目安量を計算してください。

残り5~10%(1日30~50g位)の内、おかず(主菜・副菜)の肉や魚、野菜などから毎食10g程度(一日で約20~30g)を摂取しています。そして、残りの10~20g程度を芋類、果物、乳製品などで摂取すると良いでしょう(表1:糖質10gを含む食品)。

*3 利用可能炭水化物とは、炭水化物の構成成分のうち、ヒトの消化酵素で消化できるものの総称で、炭水化物成分表では、でん粉、ぶどう糖、果糖、ガラクトース、ショ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース等のことを指します。基本的にはエネルギーを計算する際はこの値を用います。
*4 日本食品標準成分表2020年版(八訂)で炭水化物のエネルギー算出方法が改訂され、エネルギー計算の際の「利用可能炭水化物(単糖当量)」の換算係数は3.75kcalとなっていますが、ここではAtwaterの熱量係数である糖質1g=4kcalを用いて計算しました。

表1 糖質10gを含む食品重量

糖質10gを含む食品重量

 
この表の使い方
主食・副食のバランスが取れた食事ができたなかで、10~20gの糖質を含む食品選択の際に参考にしてください。例えば、デザートにフルーツを食べる際、キウイであれば1個ですが、バナナであれば半分くらいというように1回の摂取量の目安量を考える時に使用してください。  

*糖質10gあたりの食品重量を参考重量で割ることで、およその枚数や個数などを求めることができます
*糖質量は利用可能炭水化物(単糖当量)としました
出典:文部科学省 日本食品標準成分表2020 年版(八訂)を加工して作成