近年、私たちの生活環境や生活習慣は大きく変化しており、食習慣の欧米化、運動量の減少、精神性ストレスの増加などは生活習慣病のリスクファクターの増加を招いています。その結果、肥満、メタボリック症候群、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が増え、高齢化による後押しもあって医療費の増大が問題となっています。これらの生活習慣病は動脈硬化を促進するため、それ自体が脳卒中や心筋梗塞などの脳心血管疾患の危険因子でもあります。
図1は疫学研究で有名な米国のマサチューセッツ州フラミンガム市でのコホート研究であるフラミンガム研究の結果のひとつ(1976年発表)で、男女別、年齢別に心血管疾患の起こり易さを見たグラフです1)。50歳以前では、白い棒グラフで示された女性は黒の男性より心血管疾患発症率が低いという男女差がありますが、50歳台後半から女性は急カーブで発症率が増加し、70歳後半で男性に追いついてしまいました。女性が閉経を迎える平均年齢は50歳ですから、女性では閉経後に急に心血管疾患が増える、つまり、閉経は心血管疾患の危険因子であることを48年前に初めて明らかにしたのがこのフラミンガム研究です。
しかし、女性ホルモン、なかでもエストロゲンの閉経による急激な低下がどのような機序で心血管疾患の原因である動脈硬化を進めるのか、その機序が分かってきたのは比較的最近のことになります。
出典:参考文献1を加工して作成
女性ホルモンとは卵巣で産生されるエストロゲンとプロゲステロンの2種のホルモンを指しますが、このうちエストロゲンは、エストロン、17β-エストラジオール、エストリオールという構造の似た3種を総称した名前です(図2)。
3種のエストロゲンの中で身体への作用が最も強いのは17β-エストラジオールで、エストロゲンの作用を代表しています。エストロゲンは子宮、乳腺などに作用して女性の生殖機能を支える事はよく知られていますが、骨格筋、脂肪、脳など多くの臓器や組織の細胞に働きかけ、種々の作用をもたらしています。
女性は閉経を境に卵巣機能が急激に低下し、血中エストロゲン濃度が同年代の男性よりも低くなってしまいます(図3)2)。この急激なエストロゲンの減少が更年期症状のみならず、閉経後女性の肥満、メタボリック症候群、脂質異常症、高血圧症の増加に関係していること分かってきました。
出典:参考文献2を加工して作成
参考文献
1.Kannel WB et al. Menopause and risk of cardiovascular disease: the Framingham study. Ann Intern.85:447-452, 1976.
2.Carole Ober , Dagan A Loisel, Yoav Gilad. Sex-specific genetic architecture of human disease. Nat Rev Genet. Dec;9(12):911-22, 2008.