自分へのチャレンジ、体育の時間
札幌市街地と小樽の中間に位置する手稲区は、広々した平地のすぐそばに山々が連なる自然豊かな地域。稲穂小学校のすぐ近くには、1972年の札幌オリンピック会場になった手稲山がそびえています。授業当日、校内のあちこちには為末先生やこばた先生を歓迎するメッセージが飾られていて、温かなおもてなしに先生方も感激の様子。本州よりひとあし早い秋の気配のするグラウンドで、本日の授業がスタートしました。
「今日は体育、食育、夢という3つについて取り組んでもらいます。しっかり内容を聞いて、たくさんのことを学んでいただきたいと思います」という渡辺聡校長による挨拶のあと、為末先生が「今日は一緒に勉強しましょう! じゃあ今からかけっことハードルの練習をします」というと、90人の6年生児童が「はい!」と元気に挨拶。さっそく1時間目の授業が始まりました。
ウォーミングアップで楽しみながら体をあたためよう
為末先生がハードルを跳んだことがあるかどうか聞いてみると、大半の児童が手を挙げました。ところが「ハードルが好きな人!」と聞くと手は半分に。「だいぶ減っちゃったなー」と苦笑いしながら「今日は少しでもハードルを好きになってもらえたらと思います。とにかくハードルを倒してもいいから、振り返らずにそのまま走ってね!」と為末先生。
体を動かす前に、まずは体をほぐすためのウォーミングアップです。2人1組で向かい合い、ひとりはドラえもん、もうひとりはドラミちゃんになります。「先生がセット!と言ったら、2人で握手する寸前のポーズをしてください。ドラえもんかドラミちゃん、どちらかの名前を呼んだら呼ばれた人が相手の手を握り、呼ばれなかった人は相手から逃げてください。行くよ、セット!」という為末先生の掛け声でゲームが始まりました。
「ドラミちゃん!」「ドラえもん!」と先生が言うたびに、「わーっ!」「間違えた!」と児童たちは大騒ぎ。続いて同じゲームを偶数・奇数でやると、「8!」「8-5」「3×5」「8-2+5」と為末先生から計算問題が出るたびに、「ぎゃー!」「やったー!」と大きな声が校庭に響きました。
最後は、1人がおんぶをして、おんぶされた児童がおんぶしている児童の上半身をぐるっと一周して戻るゲームです。全身の筋力を使いながら、いかにバランスを保って落ちないようにするかがコツ。難易度の高いゲームだけに、おおいに盛り上がりました。
姿勢がくずれると足が遅くなる!?
体がほぐれてきたところで、ダッシュの練習に入ります。「ハードル走の90%は走る力。ハードルをうまく跳ぶには、速く走ることが大事なんです。じゃあ足が速くなるにはどうすればいい?」と為末先生が質問すると「腕をふる」「姿勢をよくする」「歩幅を大きくする」といった意見が児童たちから出ました。
「答えが出ていたね。正解は、姿勢をよくすることです」と為末先生は当日開催中だった世界陸上を例に挙げ、「よく見ていると、遅い選手は姿勢が崩れているのがわかると思います。姿勢が崩れると、走るスピードが落ちるんだよね」とまっすぐな姿勢の大切さを解説。為末先生の号令で全員その場であおむけになり、膝の後ろ、腰の後ろ、首の後ろの3か所を地面にぐっと押し付けるようにして、しばらくキープ。「そのまま立ち上がると、体がまっすぐになっている状態です。もし忘れてしまったら、自分が焼き鳥になったつもりで頭から足まで体に串が1本ささっているところを想像してみて」と為末先生。
姿勢を覚えたところで、スキップの練習です。最初は膝を高く上げながら、地面を強く踏んでスキップ。次は高くジャンプしながらのスキップ。ぴょんぴょんと大きくはねて見せる為末先生を見て「スーパーマリオみたい!」と児童たち。「そう、マリオみたいに上へ上へ跳んでみてね!」という為末先生の声に、みんなも元気よくスキップ!
最後は、前に向かって大きく速く動くスキップ練習。ぐんぐん飛び跳ねる児童たち一人ひとりに「大きく!大きく!そうそう、それだよ!いいね!」と為末先生も声をかけて応援しました。
課題をクリアして成長を実感する
いよいよハードルの練習です。7レーンのハードルは少しずつ高さが違っていて、「好きなところを選んで跳んでみよう。ハードルのコツは、高く跳ぶこと。高く高く跳んでみよう。もし目の前でハードルが怖い!と思ったら、足で倒していいよ。先生が直すから、そのまま振り返らずに走ってみよう!」
さっそく跳び始めた児童たちですが、ほとんどの人がハードルを難なくクリア。最初から一番高いハードルにチャレンジしている児童も、みんな危なげなく跳んでいくので「みんな練習しているの?すごいな、全然跳べるじゃない。うまいなー!」と為末先生もビックリ。ハードルにひっかかったり転んだりしても、くじけることなく最後まで走っていく児童たちを見て、先生の指導にも熱が入っていきます。
ハードル間の幅を狭くして3歩で走るレーンや、高いハードルのレーンなど、通常は授業の終盤でトライする難易度の高いコースも早々に登場。「タンタンターン、タンタンターンとリズムを考えながら跳んでみよう。高く高くね!」と為末先生の言葉を受け、じつに半数近い児童がむずかしいレーンにチャレンジしていきました。
教えれば教えるほど、瞬く間にマスターしてしまう児童たち。為末先生も「犬がおしっこする形で、足を曲げて真横に上げると、体が自然に前に倒れて跳びやすくなるよ!」「ハードルの上にフスマ(うすい壁)があって、それを蹴破るように跳んでみて!」と次々に跳び方のヒントを教えていきます。児童たちもチャレンジをひとつずつクリアしていくのが楽しそう。「オレはまだ1回も倒してないよー!」と嬉しそうに話す児童もいました。
為末先生とガチでハードル競争!
最後はお楽しみのデモンストレーションタイム。「先生と競争したい人!」と呼びかけると、たくさんの手が挙がりました。じゃんけんの結果、7人の児童が為末先生と本気でハードル競争にチャレンジしました。ハンデありではありますが、為末先生がまさかの負け!見ていた児童たちからは大きな歓声が起こりました。
さらにハードルの高さをオリンピック用にしたレーンを用意。こちらも3人の児童が「跳んでみたい!」と手を挙げ、見事にクリアしました。最後に為末先生が児童たちの目の前で高いハードルを軽々と走り抜けると「うわああ!!」と大歓声が上がりました。
「今日は今まで行った学校の中で、一番上手だったと思います。これからもぜひハードルを続けてください」と為末先生からの挨拶で1時間目の授業は終了となりました。