穀物と栄養
2023.5.18
第1回 食物繊維の摂取源である穀物

監修:大妻女子大学教授 青江誠一郎先生

食物繊維の摂取源である穀物

食物繊維とは

私たちの食生活でよく耳にする食物繊維ですが、どういったものを指しているのでしょうか。

実は、食物繊維の定義はさまざまで、日本でもいくつかの定義があります(表1)。例えば、厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2020年版)では、「ヒトの消化酵素で消化できない難消化性炭水化物」としていますし、文部科学省の日本食品標準成分表2020年版(八訂)では「ヒトの消化酵素で消化されない食品の難消化性成分の総体」と定義されています。

表1 食物繊維の定義例

食物繊維の定義例

*1 令和4年8月30日付で、消費者庁:「食品表示基準について」改正、高速液体クロマトグラフ法に酵素-HPLC法2(AOAC2011.25法)が追記。
出典:日本人の食事摂取基準(2020年版)、日本食品標準成分表2020年版(八訂)、食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等を加工して作成


食物繊維の生理機能

食物繊維は、水に溶けるかどうかで水溶性食物繊維、不溶性食物繊維に分類され、それぞれ異なる生理機能を持つことが知られています。

水溶性食物繊維:腸内環境の改善、血中コレステロール・中性脂肪低下、血糖上昇の抑制
不溶性食物繊維:便のカサを増やして排便を促進する、食品の腸内通過時間の短縮

また、食物繊維は生活習慣病予防との関係も報告されていることから、日本人の食事摂取基準(2020年版)で目標量が設定されている栄養素です。
(18歳~64歳の食物繊維の目標量 男性21g/日以上、女性18g/日以上)


食物繊維の摂取状況

では、私たちの食物繊維の摂取状況はどうなっているでしょうか。

日本人男女における食物繊維の平均摂取量は、1955年の調査では22.5g/日でしたが、2018年の調査では15.0g/日まで減少しています(図1)。1、2)

食品別の食物繊維摂取量を見てみると穀類からの食物繊維摂取量が減っていることが分かります。1955年の総食物繊維摂取量に対する穀類摂取量が占める比率は44%でしたが、2018年では20%まで減少しました。これは、食生活の欧米化に加えて、炭水化物への思い込みによってご飯やパン類を避ける穀物離れも一因と考えられます。

しかし、図1からも分かるように、ご飯やパンなどの穀類は、日本人にとって食物繊維の寄与率が高い食品です。日本人の食生活において、食物繊維をしっかり摂取するためには、穀類の摂取が重要です。かつての水準まで食物繊維の摂取量を戻すためには、穀類の摂取量を増やすことが一つの方法と言えます。

図1 日本人の食物繊維摂取量の変化

日本人の食物繊維摂取量の変化

参考文献1)、2)を加工して作成


穀物に含まれる食物繊維の特徴

文部科学省は、私たちが日常的によく使う食品の標準的な栄養素の成分値を「日本食品標準成分表」として公表しています。食物繊維については、今までプロスキー変法(藻類のみプロスキー法)という方法で測定した値が公表されていましたが、この方法では食物繊維と定義される一部の難消化性成分を測定できないといった課題がありました。

そこで、日本食品標準成分表2015年版(七訂)追補2018年からは、新たな食物繊維の測定方法として、AOAC2011.25法が追加され、今まで測定できなかった低分子量水溶性食物繊維難消化性でん粉全量が測定できるようになりました(表2)。

表2 食物繊維の測定方法

食物繊維の測定方法

*1 定義によっては、難消化性でん粉を食物繊維と分けて考える分類もあります。

従来の方法では、全粒小麦(玄穀)における食物繊維の大部分は、不溶性食物繊維として測定されていて、健康との関係も便通の改善が主体と考えられてきました。しかし、新しい分析法によって、全粒小麦には、大麦と同様に水溶性食物繊維も含まれることが明らかになりました(図2)。今後さらに全粒粉と健康との関係がわかってくるかもしれません。

図2 穀類の可食部 100g当たりの食物繊維量

穀類の可食部

出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂)炭水化物成分表を加工して作成

参考文献

  1. 池上幸江. 日本人の食物繊維摂取量の変遷. 日本食物繊維研究会誌, 1, 3-12 (1997).
  2. 厚生労働省 健康局がん対策・健康増進課,平成30年「国民健康・栄養調査」の結果