「雑穀」の定義は、地域、時代背景、用いられる主食などでも異なります。
穀物は農業的な狭義の分類では、主穀、雑穀、菽穀(しゅくこく)、擬穀(ぎこく)に分けられ、“主穀”は世界三大穀物である米、小麦、トウモロコシ、“雑穀”はイネ科穀物の中で小さな穎果(えいか、果実)をつけ、英語でmilletと呼ばれるアワ、ヒエ、キビなど、“菽穀”は豆類、“擬穀”はソバ、アマランサス、キヌアなどを指します(表1)。
一方、商業的な広義の分類では、身近に市販されている十六穀米などの雑穀商品に黒米、赤米、大麦、豆類、アマランサス、キヌアなどが含まれているように、イネ科に限った雑穀よりも広範囲を指しています。
食べる視点からは、一般社団法人日本雑穀協会(1)の定義のように、「主食以外に日本人が利用している穀物の総称」と柔軟に捉えるほうが分かりやすいかもしれません。
①土壌や気候変動への適応力
雑穀の多くは、様々な土壌と気象条件に適応する能力をもっており、乾燥した地域、水はけが悪い地域、高温地帯、寒冷地帯でも栽培できる種類があります。この特性は、地球温暖化による気候変動に適応できる可能性を示唆していて、雑穀は持続可能な農業の観点からも注目されています。
②優れた保存性
雑穀はポリフェノールなどの一部成分が保存中に劣化する可能性はありますが、多くの成分は湿気に強く保存中も品質を維持できます。この保存性の良さと安定した収量から、主穀が不作だった年の救荒作物としても重要な役割を果たしてきました。
③高い栄養価と健康維持への貢献
雑穀には白米よりも、脂質、食物繊維、ビタミン、ミネラルが多く含まれています。また、抗酸化物質であるポリフェノールやサポニン、食物繊維に似たはたらきをする難消化性デンプン(レジスタントスターチ)などの機能性成分も含まれています。雑穀は種類によって栄養素の含有量が異なるため、米や小麦粉と一緒に使ったり、あるいは雑穀同士を混ぜて使ったりすることで、栄養バランスを改善し、健康の維持増進に繋がります。
④幅広い利用適性
雑穀は粒のまま炊いて米飯の代わりに、粉にして小麦粉の代わりに使うだけでなく、発酵食品(醤油、味噌、酒類)やお茶の材料など、多彩な食品に使われています。日本では米の伝来よりも早くから雑穀を栽培してきた歴史があり、長い年月各地で作り続けられてきました。各地には雑穀を使った郷土料理が残っていて、飯、粥、餅、菓子類などが地域の食文化として伝承されています(2)、(3)(図1)。
出典:農林水産省Webサイト「うちの郷土料理」
(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/index.html)を加工して作成
参考
(1)一般社団法人 日本雑穀協会. https://www.zakkoku.jp/, (閲覧日 2024-1-19)
(2)農山漁村文化協会編, 日本の食生活全集 全50巻, 農山漁村文化協会, 東京, (1993).
(3)一般社団法人 日本調理科学会 企画・編集,「別冊うかたま(全集) 伝え継ぐ 日本の家庭料理」全16冊, 農山漁村文化協会,東京, (2019).