糖質と健康
2024.9.3
第3回 生活の中での糖質の役割

監修:神奈川県立保健福祉大学地域貢献センターアドバイザー 藤谷朝実先生

生活の中での糖質の役割

食事と健康維持

第1回目の「糖質の概念と役割」でも「血糖とは、全身にエネルギーを供給するために血液中に一定量含まれている糖(グルコース)のことである」とお話しました。私たちの体は、生命を維持し日々の活動をするために、血糖値を一定に保つための仕組みを持っています。就寝中は、食事からの糖質の供給がないため血糖値は低値となりますが、早朝に血糖値を上昇させるホルモンであるコルチゾールが分泌されることで肝臓のグリコーゲンが分解し、血糖値は上昇します。血糖値の上昇に伴い血糖値を低下させるホルモンであるインスリンの分泌も高まるので、起床時の血糖値は適正値となります。

起床後、糖質が含まれる朝食を摂ることで、脳や筋肉などの組織に必要なエネルギー源であるグルコースを供給することができますが、朝食を欠食すると、血糖値が低下し、肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲンを分解してグルコースを供給することになります。また、朝食を欠食することで昼食後に「血糖値スパイク」と呼ばれる血糖値のピークが通常より高くなる現象が起こりやすくなります。血糖値スパイクは、血糖値を低下させるためのインスリン分泌の負担をかけるとともに、血糖値の急激な上昇と低下によって動脈硬化を促進するリスクともなります。

一方、朝食をとる場合でも、エネルギー源として重要だからといってトーストやおにぎり等の糖質のみで済ませてしまうと、血糖値スパイクが起こりやすくなります。こういった血糖値スパイクを予防するためには、糖質を食物繊維やたんぱく質、脂質と合わせて摂取することが必要です。血糖値の急激な上昇と低下を緩やかにする朝食としては、米飯を中心とした食事であれば、納豆や卵焼きなどのたんぱく質と野菜をたっぷり入れた味噌汁など、パン食であれば、乳製品と果物を加えるなどの食事となります。さらに、米飯は玄米や麦飯、パンは全粒粉などを選択することで、食後の血糖値スパイクの防止や空腹感の減少、腸内細菌叢の改善など相乗的な効果も期待できます。

食事風景

昼食はご自宅で召し上がる他に、外食されたりお弁当を持参される方もいらっしゃると思います。昼食に「何」を食べると健康的かという食事の内容について考えることは、望ましいことではありますが、時間や経済的な問題もあって難しいことがあるかもしれません。そういった場合は、午後の仕事や活動のために、まずは「食べる」ということを優先し、エネルギーやたんぱく質を適正摂取するということを中心に食事を選択するとよいと思います。昼食で過不足のあった食品や栄養を、夕食の内容で帳尻合わせをするとよいと思います。

夕食時の過食は、インスリンの分泌刺激を継続し、脂肪合成を高めることによる体重増加のリスクとなるほか、目覚めや食欲に関係するコルチゾールの分泌に影響を与え、目覚めの悪さや朝食時の食欲低下などを招く可能性もあるため注意が必要です。また、夕食後の活動量はそれほど多くないと思いますので、エネルギーや糖質は昼間ほど多くは必要ありません。夕食は、昼間食べられなかった野菜をたっぷりにしたり、魚料理などにされたりすると一日の中でバランスの取れた食事内容となります。


運動と糖質

減量には体脂肪の燃焼を促すような有酸素運動が有効だといわれています。運動によって、脂肪が燃焼すると共に、筋肉量が増加することで、基礎代謝量が増え、いわゆる太りにくい体を作ることができるといわれています。

歩行などの有酸素運動では、糖質や脂質を分解してミトコンドリア内のTCA(クエン酸)回路によってエネルギー物質(ATP)の合成が行われますが、この回路は糖質やアミノ酸から供給されるオキサロ酢酸を必要とします(図1)。つまり、糖質が枯渇した状況下では、脂質を効率よく消費してATP合成を行うことができないのです。

減量のために朝食前に運動をされている方は、前日の夕食の時間や内容にもよりますが、効率よく脂肪を消費できないだけでなく、肝臓のグリコーゲンの減少を促進させ、朝食摂取後に血糖値スパイクやインスリンの過剰分泌による脂肪合成を起こしやすいといったリスクがあります。減量のためどうしても朝食前に運動をするのであれば、5~10g程度のグルコースを摂取(バナナであれば1/2本程度)し、運動後にたんぱく質を含む朝食を摂取すると良いでしょう。

図1 TCA(クエン酸)回路

TCA(クエン酸)回路

また、血糖値は食事の1時間後にピークを迎えるため、このタイミングで運動をすることはエネルギー消費の視点からも望ましいと考えられます。食後1時間の運動時間を設けることはなかなか難しいかもしれませんので、「少し速く歩く」、「目的地の一駅前で降りて歩く」、「エレベーターを使わない」など、日常生活の中で身体活動量を増加させることを取り入れながら、週に1~2回・食後に身体活動の強さ3~5メッツの運動(表1)を1時間程度実施することは実現可能な運動プランです。

表1 3~5メッツの運動例

3~5メッツの運動例

出典:健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023を加工して作成


筋肉と糖質

運動によって筋たんぱく質の分解と合成が活性化されますが、分解は運動後約24時間継続するのに対し、合成は運動後約48時間継続するため、運動後は筋たんぱく質の分解よりも合成の方が長く継続します。筋たんぱく質の合成が高まっている時に、食事などによってエネルギーや栄養素を摂取することで、筋たんぱく質の合成がさらに進みます。

糖質を摂ることで分泌されるインスリンはたんぱく質の合成を促進する働きもあるため、糖質とたんぱく質を一緒に摂取することで筋たんぱく質の合成効率が高くなります。筋たんぱく質の合成、つまり筋肉をつけるためにも、糖質を含む食事が重要なのです。