男子400mハードルの日本記録保持者で「侍ハードラー」の異名を持つ為末大さんが全国の小学校で出張授業を行う「爲末大学食育学部」。2018年度の2回目は、熊本市立託麻東小学校が会場です。小学校がある熊本市東区は、都会的な設備と豊かな自然が調和した人気エリア。市内でもっとも人口が多い地域で、託麻東小学校も全校生徒数が1,000人を超えるマンモス校です。



通常は1学年を対象に行われる爲末大学食育学部ですが、今回は5年生、6年生それぞれ160名を超える2学年が参加。さらに3時間目には隣接する二岡中学校の1年生も加わり、総勢459名というこれまでで最大の児童・生徒数となりました。

当日の天気は曇り。前日の雨でグラウンドの土がほどよく落ち着き、ハードルを跳ぶには絶好のコンディションとなりました。1時間目のハードルの授業にチャレンジするのは、162名の6年生。授業前から元気な児童たち、カメラを向けられるとみんな集まってきて笑顔でピースサインを見せてくれました。

「今日はすごい人が来てくれました!みんなもテレビで見たことがあるんじゃないかと思いますが、今日はみんなでいろんな勉強をしましょう」という川上哲也校長のお話のあと、「今日はみんなでハードルの授業をやりましょう」と為末先生が挨拶。「よろしくお願いします!」と児童たちが元気に挨拶して、1時間目の授業が始まりました。


自分へのチャレンジ、体育の時間

1時間目の体育の時間は、走り方やハードルの跳び方を学びながら、児童たち一人ひとりが跳びたい高さのハードルを選んで自由に跳ぶという授業です。自分で目標を設定し、それを達成していくことでチャレンジする大切さ、運動の楽しさを実感してもらおうというのがねらいです。

まずはウォーミングアップからスタートしました。


ハードルをうまく跳ぶために大切なこと

2人1組で向かい合い、ひとりはドラえもん、もうひとりはドラミちゃんになります。為末先生がドラえもんかドラミちゃん、どちらかの名前を呼んだら呼ばれたひとが相手の手を握り、呼ばれなかったほうは相手の手から逃げる、という爲末大学食育学部定番のゲームです。「さあいくよ。セット。…ドラミちゃん!」「セット。…ドラえもん!」と為末先生が呼ぶたびに、児童たちからは「うわー!」と歓声が上がりました。次は偶数・奇数バージョンにチャレンジ。「セット…7!」「2+2!」「8-5!」「3×4!」と計算がむずかしくなっていくたびに、「いえーい!」と勝ち誇る子や「あー!」と崩れ落ちる子も出てきて、みんな楽しそうです。

続いて、1人がもう1人をおんぶして、上の人が落ちずに相手の上半身をぐるっと回れるかどうかを競うゲームにチャレンジ。難易度の高いゲームに「やばい!」「待って!落ちる!」とあちこちから絶叫が。

数組が代表でみんなの前で披露したら、ウォーミングアップ終了。
「速く走るために一番大事なことは姿勢です。じゃあどんな姿勢がまっすぐかということを教えます。みんな、あおむけで寝てみて」

全員があおむけになると「今、地面にくっついているところはどこかわかるかな?そう、かかと、ひざのうえ、あとは首のうしろだね。そのくっついているところをしっかり地面につけてみよう」と為末先生。「これがまっすぐの姿勢だよ。その状態を覚えておいて、立ち上がってみよう。焼き鳥の串が頭から刺さっているような感じをイメージしてみるといいよ」

「その姿勢のまま走ってみよう。はい、ダッシュ!」

為末先生の合図でダッシュの練習がスタート。まずは普通にスキップで進む練習から始まり、慣れてきたら今度は上に向かって高くスキップ。つづいて、前に向かって大きく歩幅を取りながらスキップする練習です。先生の指示をスイスイこなしていく児童たちを見て「上手だから、今度はもっと手を大きく振りながらスキップしてみよう!」とどんどん課題を出していきます。

「最後はスタートの形をやってみよう。スタートするときのポーズって、どうしてこういう形にするのかわかるかな?あれは体の転ぶ力を利用するためなんだよ。前足に体重の9割をかけて、前にかたむけてみて。手はあくまでつっかえ棒。体が倒れちゃうくらい、前かがみになってみて」為末先生に言われたとおりにやってみると、本当に倒れそうになってドキドキの児童たち。「もっともっと!体だけスタートラインを乗り越えるような気持ちで体重をかけてみよう。そのままスタートダッシュ!」と為末先生に促され、みんなでスタートダッシュの練習をつづけました。


自分で目標を定めて、超えていく

ダッシュの練習が終わったら、いよいよハードル走に取り組みます。グラウンドには3段階の高さのハードル12レーンが用意されました。「好きなところを跳んでいいよ。ハードルは倒しても、振り返らなくていいからね。とにかく高く跳ぶこと!それだけ考えてやってみよう」と為末先生が児童たちに呼びかけると、それぞれが自分の好きな高さのレーンを選んでチャレンジを始めました。

とにかく元気な託麻東小学校の児童たち。どのレーンも難なくクリアしていきます。身体能力の高さに気づいた為末先生、さっそく1レーンずつハードルを高くしていきましたが、それでも気にせずみんな跳ぶ、跳ぶ!ハードルが倒れようが、前の人がハードルを倒したままだろうが、気にせずガンガン跳びつづけています。「みんな、うまい。勢いがすごいな!」と唸る為末先生。

「ハードルを跳ぶときの抜き足ってどうやっているかな?跳ぶときは犬のおしっこみたいにやってみて。犬がおしっこするような姿勢にすると、自然と体が前に傾くよ」先生のアドバイスを聞いたそばからトライする児童たちの「もっと、もっと」という思いに応えるように、ハードルの高さをあげたり、3歩で跳ぶレーンを設けるなど、為末先生も課題をどんどん与えていきます。

「ハードルでいちばん大事なのは姿勢です。ハードルの上に壁があると思って、体ごとぶつかって壁を突き破るところをイメージしながら跳んでみよう」 為末先生のアドバイスでさらにパワーアップした児童たち、ぐんぐんスピードを上げてハードルを跳んでいきました。

最後にお楽しみのデモンストレーションタイム。「先生と競争したい人!」と為末先生がチャレンジャーを募ると、7人の児童が集結。為末先生とダッシュのガチンコ勝負です。笛の合図で一斉に走り出すチャレンジャー。なんと、今回はじめて為末先生に勝った児童が現れました!思わず「ねえ今の、フライングじゃなかった?」と負け惜しみをつぶやく為末先生でしたが、オリンピック選手が跳ぶハードルの高さを見せ、そのハードルを颯爽と跳んでみせると、あまりのスピードと流れるような動きに会場から「おおー!」とどよめきが上がりました。


まとめ-目標達成はできたか-

「授業を通じてハードルを好きになってほしいということと、最初はムリかなと思ったハードルを跳べるようになる、という小さな成功体験を味わってほしい」という為末先生の願いがこもったハードルの授業。託麻東小学校の児童たちは、授業のテーマをしっかりと感じてくれたようで、多くの児童がむずかしい課題をクリアしていき、為末先生も満足そうにしていました。

「ハードルで大事なのは姿勢。体をまっすぐにすることを忘れないでください。今日はみんな、すごくハードルがうまくなったと思うので、これからも練習をつづけてください」という為末先生の挨拶で、ハードルの授業は終了となりました。


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