最後は、自分たちの「夢」についてみんなで話し合う授業です。
1時間目に参加した6年生、2時間目に参加した5年生、さらに隣接する二岡中学校の1年生133名が加わり、体育館は授業開始前から児童・生徒の熱気であふれていました。

小学生にはあらかじめ専用シートに将来の夢について書いてきてもらい、シートをもとに夢を実現するまでの「夢の発表シート」をグループに分かれて話し合ってもらいます。また中学生はある程度の考えをまとめてもらい、授業内で話し合いを行うというスタイルを取りました。



話し合いにあたって、為末先生から3つのルールが紹介されました。
「1つめは、今日はまわりがどう思うのかなということは気にしないで、自分がどう思っているかということを考えてください。2つめは、みんなと違う夢を発想してみてください。3つめは、友だちにどんどん質問したり、こうしたらどうか?と広げてみてください」


夢の発表 −自分の考えを人前で話す 

まずは、みんなが考えてきた夢について発表してもらいました。「発表してくれる人、手を挙げて!」と為末先生が問いかけると、児童たちから次々に手が挙がりました。

「僕の夢はユーチューバーになることです。面白いユーチューバーになりたいです」
「僕の夢はゲームクリエイターです。ゲームが好きで、いつかバトルゲームみたいなものを作ってみたいです」
「アニメかマンガに関係する仕事がしたいです。趣味で絵を描いていて、将来絵の仕事ができたらいいなと思います。自分がバレーをやっているので、バレーのマンガとかできたらいいなと思います」
「私の夢は通訳さんになることです。英語が好きだから、英語を使って通訳をやってみたいです」
「プロ野球でピッチャーになりたいです。好きな選手はソフトバンクホークスの千賀投手で、フォークが超かかるのがかっこいいです」

3学年またいでいることもあり、多彩な夢が発表されましたが、人前で発表することに慣れていないのか、為末先生が質問すると「まだわかりません」「考えていません」と答える児童も。それでも為末先生がくわしく質問することで、答えを導き出そうと考える子もあらわれました。



話し合い-夢のストーリーをみんなで話し合う-

発表が終わると、いよいよ各自の夢についてストーリーを考える、話し合いの時間です。「何歳の時にどうなっているのか、どうやって夢にたどりつこうか、具体的に考えてみてください。たとえばアニメの仕事なら15歳から自分のマンガを描き始めるなど、なんでもいいので自分がこれからどうしていくのかを考えてほしいんです。わからないことは先生や友だちに聞いてもいいよ。大事なのは、友だちの夢を聞いて『それはむずかしいんじゃない?』というんじゃなくて『だったらこういう風にできるよね』とアドバイスしてほしいということです」

為末先生の指示をもとに、グループで15分間の話し合いがスタートしました。体育館いっぱいに広がって、さっそく話し始める児童たち。「史上最高に元気な子どもたちで、いいですね」と嬉しそうにしながら、為末先生やこばたさんも児童たちの輪の中に入って会話に加わります。「高校のときはどうするのか、具体的に考えてみて」「音楽関係って、どんな種類の音楽かな?」「18歳で終わりじゃないよ、30歳40歳くらいの未来まで考えてみてね」と話しかけながら、一人ひとりの夢について聞き込みしていく為末先生。

職業をシートに書いたものの、ストーリーがなかなか書けない児童も少なくありませんでした。それでも為末先生や学校の先生たち、取材に来ていたメディアの方々も巻き込んで、みんなで話し合っているうちに少しずつ形が見えてくる人も多くいたようです。「モノをつくる人になりたい」「具体的になにを作る人になる?」「バイクをつくりたい」「バイクをつくるのか、すごいね!」なんて活発な会話があちこちでくり広げられました。

また自由討論スタイルで語り合った中学生も、積極的に話しかける姿が見受けられました。恥ずかしがって夢を口にしたがらない人もいましたが、いざ質問されるとしっかりした意見が返ってくるというケースが多かったです。


発表-夢を具体化し、目標を設定する-

話し合いが終わり、話し合いの中で考えた「夢のストーリー」を発表してもらう時間です。為末先生が「じゃあ発表したい人!」と呼びかけて、元気よく手を挙げてくれた児童から発表がスタートしました。

「小さい時から野球の練習をしっかりやって、高校では甲子園で活躍して、ソフトバンクホークスに入ってプロ野球選手になりたいです」
「お菓子の工場で働くことです。20歳くらいで工場をつくって、新しいお菓子を販売したいです。みんなでおいしく食べられるお菓子をつくりたいです」
「私の夢はプロバスケットボールの選手です。中学校でバスケットの技術を磨いて、高校ではチームをまとめるポイントガードになりたいです。大学で強いチームに推薦されるようにしたいです。そのあとは女子のプロバスケットのクラブチームに入ります」
「私の夢はプロゴルファーになることです。家族がゴルフをやっているので、中学3年か高校1年生で特待選手に選ばれて、20歳くらいから賞金を稼いで、25歳で賞金女王になりたいです」
「保育園の先生になりたいです。小さい子どもが好きで、3年生で保育士になることを決めました。10歳でお母さんの友だちの子どもに優しくすることにして、23歳で保育士になって、大人に迷惑をかけないようにがんばりたいです」

話し合いの結果、多くの児童・生徒がストーリーを描けたことがわかりました。なかには「僕の夢はスナイパーです。15歳から力を鍛えて、16歳から18歳まで忍耐力を鍛えて、20歳でスナイパーになりたい」という児童に「やられちゃうな」と為末先生が焦ったり、「中学生!大人の力を見せてやれ!」と為末先生が中学生を指名すると「ロシア人と結婚したい。高校で交換留学して、そのまま日本には帰らずロシアで暮らしたいです」と答えて「初めて聞く夢だな」と先生がリアクションする場面も。


まとめ

最後に為末先生からメッセージが贈られました。「もしみんなが本が好きだったら『影響力の武器』という有名な本を読んでみてほしいんだけど、この中の一節に<人間は自分がこれをやりたいと宣言したことをがんばる性質があり、まわりの人はそれを応援する性質がある>というものがあります。夢についてみんなに言うと、自分自身ががんばるし、まわりの人もそれをサポートするので夢がかないやすい。だから今日みんなに発表してもらいました。

<夢がかなう秘訣>について紹介します。1つめは、とりあえずやってみるということ。たとえばユーチューバーなら今日から動画を撮れるし、ロシア人と結婚するなら今日からロシア語の勉強を始められる。つまり、今日からでも夢に向かって始められる状態なんだよね。やってみることで、思っていたものと違うな、とかけっこう大変だな、とわかったら夢を変えてもいい。とにかくやってみることが大事です。

2つめは、友だちの夢を応援してほしいということ。3つめは、思いを大事にすること。今日みんなが発表してくれたのは、実は「手段」なんですね。たとえばプロ野球選手になるというのは手段であり、仕事であって、野球選手になることででっかいホームランを打ってファンを喜ばせたいとか、みんなを元気づけたい、というのが本当の夢なんです。みんなが何かになりたいと思ったときに、なぜそれをやりたいと思ったのかを考えてみてほしいんです。その裏に必ず思いがあるはずなので。

また僕は『音付き色付きで夢を見てください』とよく話すんだけど、プロ野球選手ならどこのチームのユニフォームを着て、どんな打席の何球目を打って、ボールは右に飛んだか左に飛んだか、誰が喜んでいて、勝利者インタビューで何を話すかまで考えている人のほうが夢はかないやすいんです。今日は帰りながら自分の夢がかなったときのことを想像してみてくださいね」

ここで為末先生、「最後にこばた先生の夢について聞かせてください」とインタビュー。するとこばた先生は「スポーツと食を通じて、多くの人が元気になっていただけるようなアドバイスをしていきたいです」と答えました。「こばた先生は栄養の先生ですが、本当の目的はみんなを笑顔にすることなんだよね。こんな感じでみんなも考えてみてくださいね。今日はありがとうございました」と挨拶し、為末大学食育学部の授業はすべて終了となりました。