最後は、自分たちの「夢」についてみんなで話し合う授業です。児童にはあらかじめ専用シートに将来の夢について書いてきてもらい、それをもとに夢を実現するまでの物語を考えて「夢の発表シート」にまとめてもらうグループワークです。



話し合いにあたって、為末先生から3つのルールが紹介されました。
「1つめは、自分の思いを大事にすること。2つめは、みんなと違う夢を考えてみてほしいということ。3つめは、友だちの夢を広げてほしいということ。今日考える夢は、仮のものでいいよ。夢はどんどん変わっていくものだから、今日思う夢について考えてみてください」


人前で自分の思いを発表する

まずは、みんなが考えてきた夢について発表してもらいます。「発表したい人!」と為末先生が問いかけると、ハードルや食育の授業と同じように、児童たちから勢いよく手が挙がりました。

「ガンダムみたいな乗り物を作って火星に行って、きのこを作って人類を救いたいです」
「2つ夢があって、大工とサッカー選手です。サッカーでは日本代表になってディフェンスで活躍したいです。大工としては、高そうな大きな家を建ててみたいです」
「車を開発する仕事をしたいです。今は自動運転の時代なので、車を運転する楽しさを感じられるような、速くてカッコいい車を作りたいです」
「魚をさばくのが好きなので、寿司屋の大将になりたい」
「バスケットボールの日本代表選手になりたいです。憧れの選手は八村塁選手です」
「ウエディングプランナーになりたいです。結婚式場でバイトをしているはとこから話を聞いて、私もみんなが笑顔になれるような結婚式を作りたいです」
「プロ野球選手になりたいです。大谷翔平選手みたいに二刀流の選手になって、26歳でメジャーデビューしたい」

一般的に小学校6年生になると、人前で話すのを恥ずかしがる傾向が強くなりますが、魚崎小の児童はとにかく前のめり!「聞いて聞いて!」とばかりに夢を発表してくれるので、為末先生も「どうしてその夢になったの?」「どんな車を作りたいですか?」と児童たちに質問攻め。話し合いの前から大いに盛り上がりました。


夢は職業じゃない。本当の夢とは?

会場の雰囲気があたたまったところで、それぞれの夢についてストーリーを考える話し合いに入ります。グループに分かれて、みんなで話しながらワークシートの空欄を埋めていきます。200名を超える6年生が一斉に話し合いをするのは、爲末大学食育学部では初めてのこと。それでも児童たちはすばやく体育館中に散って、各自で話し合いを進めていきます。

お互いの夢のシートを見ながら「どこの学校に行く?」「それやったら、こっちのほうがいいよ」とあちこちで会話が盛り上がっている様子。為末先生も、児童たちの輪の中に入って一人ひとりの夢についてインタビューをしていきます。「ユニークな夢が多く、自分の意見もちゃんとある。時間が許せば全員の夢をじっくり聞きたいくらい。班によっても個性があって、面白いですね」と為末先生も楽しそう。

児童たちの会話は最後まで途切れることなく、盛り上がったまま話し合い終了! 再びみんなの前で「夢のストーリー」を発表してもらいます。

「18歳で神戸大学に行って、21歳で就活をして、22歳で就職して、23歳で出世して、32歳で出世して、45歳で出世して、50歳で転勤して、52歳で会社を作って、55歳で大赤字になって、57歳ですごいサッカーシューズを作って、59歳ですごい儲かって、62歳ですごいサッカーチームのスポンサーになって、67歳で息子がサッカー選手になり、69歳で子供に会社を譲って、72歳で本を作って、77歳ですごい儲かります」
「中学校でいい成績を残して、狭間監督に選ばれて明石商業に行って優勝して、ソフトバンクに行って、26歳でメジャーリーグに行って、ピッチャーで大谷選手を超える167kmを出して、メジャーでホームランを35本打てる選手になりたいです」
「中学校で硬式野球部に入って、高校では甲子園でいい成績を残して日本代表になり、プロ野球選手になってソフトバンクで3番サードで活躍して、26歳で結婚して、28歳でメジャーリーグに行って、イチローの安打を抜いて、引退したらNPBの監督になって老後を過ごします」
「将来の夢はバスケットボール選手で、中高では3年はできるだけスタメンを取り続けて、1、2年ではレギュラーに入るように努力して、その後いい大学に行って、日本代表に行けるよう日本のリーグで活躍して40歳まで現役を続ける。目標はダンクができる選手になることです」
「中学校でトラック運転手の就職先を決めて、高校でトラックのパンフレットなどを集めて、大学生になったらトラック運転手のシミュレーションゲームをして練習して、免許が取れたらトラックドライバーのお父さんのトラックに横乗りして運転を覚えて、自分もトラックドライバーになる」
「中学校ではオール5を1回はとって、いい成績をおさめて、車の開発をするには高専に入ったほうが強いから高専に進んで、車について勉強して、就職して車の開発リーダーになりたい」

どの児童もかなり細かくストーリーを考えていて「すごいな、人生設計がバッチリできているね!」と為末先生も感心しきり。結婚をライフプランに加えていた児童に「奥さんとはどこで出会う予定ですか?」と質問すると「合コンで」と答えて会場が大爆笑するなど、終始和やかな雰囲気で発表が行われました。

授業の締めくくりに、為末先生からメッセージが贈られました。
「大人が『あなたの夢はなんですか?』とたずねる時は、職業を聞いていることが多いです。プロ野球選手も、栄養士も、プロゲーマーも職業です。本当の夢というのは、職業を通じて何をしたいかということ。プロゲーマーになって何をしたいのか、プロ野球選手になってホームランを打ってどうしたいのか。その夢が何だかわかっていれば、職業が変わっても夢をかなえることはできるんです。

僕は今41歳ですが、振り返ってみると僕がみんなの年にはなんとなくこうしたい、という夢があった気がします。それは、人がびっくりする顔を見たいということ。普通じゃないこれ! という顔を見るのが好きだったんです。自分が速く走ると、みんながそういう顔をするのが楽しかったんだけど、引退した今はメディアの仕事が同じような感じですね。みんなの中にも今すでに何かあるはず。それって何だろう? と考え続けていると、きっと夢が広がっていくと思います。そうやってたくさんの夢をかなえていってください」

これで爲末大学食育学部の授業はすべて終了となりました。