気候変動対応

気候変動に対する考え方

 当社グループは、穀物や野菜、魚介類など、多くの地球の恵みの恩恵を受け、事業を展開しており、これらの素材の調達から製造、物流、加工等のサプライチェーン全体の事業活動が環境に大きな影響を与えていることを認識しています。
 サステナブルな食料システムの維持のため気候変動への対応は、当社グループの事業継続において喫緊の課題と認識し、社会的責務と考えています。

TCFD提言への対応

はじめに

 当社グループは、2023年にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明し、TCFDの提言に沿って、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目について、情報開示を推進しています。

ガバナンス

 当社グループはサステナビリティ課題への取り組みを経営課題と捉え、代表取締役社長を委員長とし、専門的知識を持つ社外取締役も含めて構成される「サステナビリティ委員会」を取締役会の直属組織として設置し、サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視、統制を図っています(2回/年程度開催)。
 本委員会で、長期的視点に立ち、社会のサステナビリティを多角的に検討し、気候変動の対応を含む当社グループのサステナビリティに関する方向性、マテリアリティや戦略のあり方について審議し、取締役会へ答申します。取締役会はこれを受け、マテリアリティの承認やサステナビリティを踏まえた基本戦略を決定します。

 また、サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別、評価、管理するため「サステナビリティ実行委員会」を設置し、気候変動問題の対応、資源循環促進等、事業継続に係わる環境問題を横断的に検討する「環境部会」に加え、サステナビリティに関する情報開示と方向性を同じくする人的資本経営における「健康経営推進委員会」「HC(ヒューマンキャピタル)部会」を「サステナビリティ実行委員会」の下部組織に設置しました。横断的な取り組みを実施し、最高責任者である当社代表取締役社長が責任を持つ体制としています。

環境マネジメント体制図

リスク管理

 気候変動に関するリスクは、「サステナビリティ実⾏委員会」の傘下に設置した「環境部会」で議論し、全社的なリスクを扱う「リスクマネジメント委員会」と共有した上で、当社グループが直面するリスクの洗い出し、重要リスクの優先順位付けとその対策を⽴案しています。事案に応じて、「リスクマネジメント委員会」傘下の「事業遂⾏部会」、「災害対策部会」、「コンプライアンス部会」、「情報セキュリティ部会」の4部会で対応しています。

リスクマネジメント体制図

戦略

シナリオ分析

 持続可能な事業の継続により、価値を創造し続け、持続可能な社会を実現するためには、気候変動によるリスクと機会に関連する事業インパクトを評価し、対応策を立案、実行していくことが重要と認識しています。 2023年より基幹事業である製粉事業でシナリオ分析を開始し、2024年から分析範囲を食品事業に拡げ、 気候変動のシナリオ分析を1.5℃上昇、4℃上昇の世界観を想定し、2030年、および2050年における気候変動リスクと機会の抽出を行いました。重要度評価、対応策の策定を進め、気候変動のリスク・機会に対してより具体的な対応策を経営戦略に反映し、2030年のCO2削減目標達成のための削減対策を推進していきます。

4℃ 1.5℃
使用した主なシナリオ 移行シナリオ
IEA World Energy Outlook(WEO)2022
STEPS NZE
物理シナリオ
IPCC 第5次評価報告書
RCP8.5
RCP6.0
RCP1.9
世界観を想定した時間軸 2030年および2050年
分析対象 日本国内の製粉事業・食品事業(冷凍食品、食品素材、加工食品)
IEA:国際エネルギー機関(International Energy Agency)
IPCC:国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)

影響度評価と対応策

<リスク>

1.5℃シナリオの世界観
■ 脱炭素社会への移行に伴うリスク:大 ■ 異常気象などの物理的なリスク:小
 ✓気候変動対策が強化され、温室効果ガス排出量の削減目標設定が厳しくなる
 ✓脱炭素社会への移行に伴い、カーボンプライシングの導入や再生可能エネルギーへの転換により操業コストが増加する
 ✓2030年にはすべての新築はZEB化、2050年には既築の85%以上がZEB化するためインフラ整備の費用が増加する
 ✓発電量に占める再エネ比率が2030年61%、2050年88%に達する
 ✓人々の消費行動が変化し、環境負荷の低い製品やサービス、リサイクルやリユースの需要が増加する
 ✓低炭素技術や省エネへの関心がさらに高まり、環境に配慮した事業活動が企業価値向上につながる
 ✓ESG投資、グリーンボンド、カーボンクレジットを活用し、クレジット創出・販売等による資金調達が活発になる

種類 リスクの発生
する要因
具体的内容 財務への影響 対応策
移行 リスク 政策/法規制 炭素税・炭素価格 炭素価格の上昇により、サプライチェーン全体(原料調達、製造、物流、エネルギー、廃棄等)のコストが幅広く上昇 ・太陽光発電設備の導入
・再生可能エネルギーへの切替
・高効率設備への切替
・共同配送、モーダルシフトの活用
・インターナルカーボンプライシング導入による財務影響の見える化
脱炭素促進の新規制 食品ロス削減に対する政策強化や、生活者の削減志向に対応するための、原材料や容器包材の切替コストが増加 ・環境配慮型の製法開発
・素材メーカー、容器包材メーカーとの積極的な協働
・代替素材の検討
技術 低炭素技術への移行 環境配慮商品、サービスの低炭素型への移行に伴い、開発コストや設備投資コストが増加 ・環境配慮型の製法開発
・素材メーカー、容器包材メーカーとの積極的な協働
・代替素材の検討
市場 脱炭素社会への対応 環境意識の高まりによる低炭素商品への需要増加による当社シェアの低下
調達に関する環境配慮が高まり、対応の遅れによるビジネス機会の損失
・低炭素商品の開発
・環境に配慮した調達の推進
・認証材の調達推進
評判 ステークホルダーからの評価 気候変動対応が不十分な場合、ステークホルダーからの評判が低下 ・気候変動対応と適切な情報開示

4℃シナリオの世界観
■ 脱炭素社会への移行に伴うリスク:小 ■ 異常気象などの物理的なリスク:大
 ✓気候変動対策は現状以上に求められず、移行リスクは一定水準に抑えられる
 ✓化石燃料由来のエネルギーの使用は継続され、再生可能エネルギーの使用は限定的に推移する
 ✓ただし、省エネルギー技術はコスト面から需要が増加する
 ✓地球温暖化が進み異常気象(台風・豪雨など)が激甚化し、自社拠点および従業員への物理的被害が増加する
 ✓取引先の物理的被害やサプライチェーンの寸断による業務の停滞等のリスクが拡大する
 ✓気温上昇や水リスクなどによる原材料の生育環境が変化し、原材料調達コストが増加する
 ✓気候変動による災害に備えた社会インフラの整備が加速する
 ✓気温上昇により労働環境の変化や感染症が増加し、取引先等の業績が悪化する可能性が高まる
 ✓災害対策・災害復興商材などの需要が増加する(賞味期限延長技術や包装技術の開発が進む)

種類 リスクの発生
する要因
具体的内容 財務への影響 対応策
物理 リスク 急性 異常気象の激甚化 風水害被害による工場の操業停止による収益減少
穀物産地での深刻な水不足による生産効率の低下
・風水害被害に対応する設備投資
・複数購買先の確保
・干ばつに強い品種の育種
・風水被害エリアの特定と対応
慢性 降雨パターンの変化、気象パターンの極端な変動、平均気温の上昇 気温上昇や降水不順等の慢性化により、栽培適地の変化、農作物の収量低下、品質劣化が発生し、原材料価格や製造コストが上昇
調達ルート変更による原材料調達コストの増加
購買先の事業活動の一時的中断による調達リスクの増加
・複数購買先の確保
・干ばつに強い品種の育種
・風水被害エリアの特定と対応
・購買先エンゲージメントの強化
病害虫被害の拡大による農作物の収穫減や品質悪化に伴う、原材料調達コストの上昇 ・複数購買先の確保
・病虫害に強い品種の育種

<機会>

分類 想定される事象 具体的内容 財務への影響 対応策
資源の効率 効率的な輸送手段の利用
効率的な生産・流通プロセス
効率的な輸送手段への切替や、車載積載効率を向上させることによる輸送コストの削減 ・モーダルシフトへの転換
・製品荷姿の標準化推進
再生材の利用 リサイクル材の使用による環境負荷低減及び調達コスト低減 ・物流パレットのリサイクルスキーム構築
製品・サービス 新技術の利用 環境負荷の低い製品や、フードロス削減への需要に対応した製品の売上増加 ・環境配慮型商品の開発や技術開発
市場 生活者の行動・嗜好の変化 健康ニーズが高まりやエシカル志向の拡大による、代替タンパク(PBF)製品の需要拡大
気温上昇による冷凍食品などの簡便調理や、調理時間の短い商品の需要拡大
・代替タンパク製品の開発
・持続可能な原材料活用商品使用
・環境配慮型製法や製品の開発
新規市場へのアクセス 新興国での人口増加に伴う、代替タンパク質(PBF)の需要拡大 ・代替タンパク製品の開発
・持続可能な原材料活用商品使用
・グローバルでのニーズ調査
・グローバルでのコミュニケーション強化
レジリエンス 資源の代替/多様化 原材料調達先の多様化によりコストを削減し、調達不能リスクを減少させる ・調達リスクの特定
・サプライヤーコミュニケーション強化

指標と目標

 当社グループは気候変動への対応を企業理念を実現するための重要な課題のひとつと捉えています。食の持続可能性に対する負のインパクトを軽減するため、GHG 排出量の削減に取り組むことの重要性を認識し、2030 年度までに、スコープ 1,2 の GHG 排出量を総量で 2021年度比42%削減する目標を策定しました。2050 年カーボンニュートラルの実現に向けて、具体的な取り組みを実行に移していきます。

GHG排出量の管理

GHG排出量推移

ニップングループGHG排出量の推移

Scope1+2 国内外排出量と原単位管理

2021年度 2022年度 2023年度
GHG排出量
(千トン-CO
国内 153 154 151
海外 9 9 9
合計 162 163 160
CO排出原単位
(t-CO/千t)
86.0 84.7 82.0

Scope3

2023年度のScope3の算定は、昨年の製粉事業に加え食品事業に算定範囲を拡大しました。

Scope3カテゴリ GHG排出量(千t-CO2e)
カテゴリ1:購入した製品サービス 2839.15
カテゴリ2:資本財 37.63
カテゴリ3:Scope1/2以外の燃料等 11.87
カテゴリ4:輸送配送(上流) 450.87
カテゴリ5:事業からでる廃棄物 0.87
カテゴリ6:出張 2.07
カテゴリ7:雇用者の通勤 0.86
カテゴリ9:輸送配送(下流) 15.49
カテゴリ10:販売した製品の加工 537.61
カテゴリ11:販売した製品の使用 33.19
カテゴリ12:販売した製品の廃棄 0.26
※ 排出係数は環境省・経済産業省の〝サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス等の算定のための排出原単位データベースVer3.4〟を利用。

気候変動対策

 当社グループは、気候変動対応を経営上の重要課題と捉えています。気候変動により干ばつや多雨などの異常気象が深刻化・増加することは、当社の主力商品の原料である小麦の収穫量減少につながる要因のひとつです。平均気温の上昇も小麦の収穫量減や品質低下にもつながるとともに、原材料コストの上昇につながるリスクとなり、消費者に安定した品質の商品を提供し続けることも難しくなり、生活者の食生活に大きな影響を与える可能性があります。これらについては当社の信用リスクに関わる課題として対応していきます。
 一方で、これを新たな商品開発への取り組み機会とし、小麦の品質を維持するための高度な製粉技術の構築や、新規素材を活用したヘルスケア分野へ高付加価値商品を開発、販売も推進します。
 事業活動によるエネルギーの使用量およびGHG排出用の削減対策として、エネルギー使用量が低減できる設備の積極的な採用や、工場への太陽光発電導入を進めています。原料輸送についてもGHG排出量の少ない海上貨物輸送へ積極的に切り替えを行っています。
 また、開発から購買までを原材料調達部で一貫管理することで調達機能を最適化し、サステナブルな調達を進めます。
 今後も気候変動対応を当社の重要な課題と位置付け、取り組みを推進しています。

再生可能エネルギーの導入

 再生可能エネルギーの利用を促進するため、冷凍食品を 製造する国内の伊勢崎工場と竜ヶ崎工場に続いて、タイのプレミックス・冷凍生地製造拠点NIPPN Thailandと中国のプレミックス製造拠点の上海金山日粉食品有限公司に太 陽光発電設備を導入し稼働を開始しました。年間の発電量は2拠点あわせて約1,580MWhを想定しており、CO 2排出量は年間1,160t -CO2の削減を見込んでいます。今後も自社および国内外グループ会社への導入を推進していきます。

太陽光発電量とCO2削減量推移

NIPPN Thailandの太陽光発電設備

NIPPN Thailandの太陽光発電設備

上海金山日粉食品有限公司の太陽光発電設備

上海金山日粉食品有限公司の太陽光発電設備

物流における取り組み

GHG削減

2021年度 2022年度 2023年度
CO排出量
(t-CO※1
47,768 52,645 54,393
エネルギーの使用に係る原単位
(Kℓ/百万トンキロ)※2
30.4 32.7 33.0
※1 CO2排出量:省エネルギーセンターの数値(標準値)で算出しています
※2 トンキロ:1tの貨物を1km運んだ場合を1トンキロとしています

パッケージ形状変更による積載効率の向上

 近年の物流ニーズの多様化や人手不足、EC物流量の増加などを背景に、製造業や運送業では、より一層の輸送効率向上が求められています。その施策のひとつが、トラックの積載効率向上です。また、積載効率向上は製品輸送時のCO2排出量削減にも貢献します。当社グループは、「強力小麦粉ゆめちからブレンド」と、「ふっくらパン強力小麦粉」のパッケージ形状を変更しました。チャック付きで使いやすさはそのままに上部幅をスリムに、コンパクト化することで、積載効率が130%以上向上しました。

トラック積載効率比較

海上輸送

 当社は、鉄道貨物輸送へのシフト活動とは別に、フェリーを利用した海上貨物輸送に切り替える活動にも取り組んでいます。その結果、海上輸送を通じて環境対策に貢献する企業の証である「エコシップマーク認定制度」において認定事業者に選定されています。

エコシップマークのロゴ

外部イニシアティブへの参加

 環境・社会課題解決は自社のみで達成できるものではなく、多くのステークホルダーとのパートナーシップを経営することが重要と認識しています。当社グループでは、国内外の様々なイニシアティブに参画しながら取り組みを推進しています。